178778 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

 ☆ wa・ta・ga・shi ☆

 ☆ wa・ta・ga・shi ☆

☆執事桜の座敷牢日記

* 座敷牢の日々 執事の桜@謹慎中さん

鉄格子の嵌まった小さな窓からよく晴れた夏の空が見えております。
けたたましい蝉の声に混じって遠くのほうから夏祭りのお囃子の音も聞こえてまいります。
あぁ、もうそんな時期なのでありますか・・・。

座敷牢に入ってすでに3日、るんお嬢様はお変わりなくお過ごしなのでしょうか?

見なければならないビデオはあと84本・・・・

   桜



* 座敷牢の日々(2) 執事の桜@謹慎中さん

窓の外が急に暗くなってきた、と思っておりましたら、落雷の音とともに激しい雨が降ってまいりました。
連日の猛暑でお屋敷の庭園の樹木のことが心配だったのですが、この雨で一安心でございます。

それにしても夕立ちとはいえ物凄い豪雨でございます。
ビデオの音さえよく聞こえません。
その時、かすかに何かうめき声のようなものが私の耳に聞こえてきたのでございます。

この座敷牢はお屋敷の敷地の隅に建てられた別棟にあり、私のいる部屋を含めて三部屋の座敷牢がならんでいるのでございます。
しかし、今ここには私以外の人間はいないはず、おそらくあのうめき声のようなものは空耳だったのでございましょう。

見なければならないビデオはあと79本・・・・

   桜


* 座敷牢の日々(3) 執事の桜@謹慎中さん

書生のまーる君が運んできてくれた質素な夕食を食べてしまうと、後は何もすることがございません。
昼間に頑張ってビデオを10本も観たので、さすがに夜まで観ようとは思わないのです。

鉄格子ごしに見える小さな四角の夜空には綺麗な三日月が浮かんでおります。
その三日月を眺めていると、再び夕方に聞こえたあのうめき声が聞こえてまいりました。
今度は雨の音に邪魔されないので空耳などではなく、はっきりと聞こえているのであります。
しかし何を言っているのかはまったくわかりません。
よく聞くとうめき声は微妙な節がついていてお経を唱えているようにも聞こえるのです。

どうやらふたつ隣の座敷牢から聞こえてくるようでございます。
私は思いきって声をかけてみたのであります。
「あ、あのー、どなたかいらっしゃるのでございますか?」
返事はございません。
やがてうめき声は聞こえなくなりました。

見なければならないビデオはあと64本・・・・

   桜


* 座敷牢の日々(4)

書生のまーる君が朝食を運んできてくれました。
そこで私はまーる君に私以外の人間が座敷牢にいるのか尋ねてみたのでございます。
まーる君は笑いながら「今は桜様以外はここにはおられませんよ。早くお嬢様のお怒りが解ければいいですね。」と言い、去っていきました。

では、私の聞いたあのうめき声はいったい何だったのでしょうか。

そういえば、執事長のマッキー様からこの座敷牢の由来を聞いたことがございます。
たしか先々代の御当主様の奥方様が精神的な病で大声を出したり暴れたりで、まわりの人達はたいへん困ったそうで、御当主様も不本意ながらこの座敷牢を建てて奥方様をここに住まわせた、と聞きました。
その後なにやらここで惨劇があったようなのですが、マッキー様も詳しいことは教えてはくれなかったのでございます。

今は蝉の声以外は聞こえてまいりません。

見なければならないビデオはあと61本・・・・

   桜



* 座敷牢の日々(5) 執事の桜@謹慎中さん

あぁ、昨夜は一睡もしておりません。

やはり夜半にあのお経を唱えるようなうめき声が聞こえてきたのでございます。
しかも昨夜はそれにくわえて足を踏みならすようなどんどんという音まで・・・
あれはひょっとするとラップ現象とかいうものなのでしょうか?
私は恐怖のあまり大声で、「そこに誰かいるのか!いるのなら返事をしろ!」と叫びました。
しかしやはり返事は無く、うめき声とどんどんというラップ音だけがふたつ離れた座敷牢から聞こえてくるのです。
ところが30分くらいするとふいにうめき声もラップ音も聞こえなくなり、夜風になびく木々のザワザワという音だけになりました。
しかし、いつあの声が聞こえてくるかと思うと恐ろしくて気が狂いそうな夜を過ごしたのであります。

早朝の窓の外は早くも真夏の日射しが容赦なく照りつけている様子。
外は今日も暑い一日になるのでありましょう。

見なければならないビデオはあと55本・・・・

   桜


* 座敷牢の日々(6) 執事の桜@謹慎中さん

昼過ぎにるんお嬢様の御友人であらせられるしー様がレア物のビデオを差し入れてくださいました。
ほんとうにお優しい方でございます。

夕方には執事長のマッキー様が来てくださいました。
私の反省の様子を観て、るんお嬢様にご報告されるそうです。

私はあまり変なことを言ってマッキー様に誤解されるのを恐れ、例のうめき
声やラップ音のことは話さないようにしたのでございます。

私は話の中でさりげなく先々代の御当主様の奥方様のこの座敷牢での生活について聞いてみました。

マッキー様はあまり話したがらないご様子でしたが、それでも少しづつ話してくださいました。
それはたいへんな日々だったようです。
糞尿をまきちらしながら暴れ回る奥方様とそれに振り回されるお付きの方々。
お付きの方のなかには暴れる奥方様に大怪我をおわされる人まで出る始末。
しかしある日突然に奥方様は亡くなられたのだそうです。
その死に方というのが複数のお付きの方々が見ているなかで、壁からふいに現われた謎の手によって奥方様は首を絞められて息絶えたそうでございます。

マッキー様は「壁から手なんぞ現われるわけなどなく、おそらくお付きの中のひとりが思い余って奥方様の首を絞め、他の皆がその人をかばうために嘘をついたんだろうな」と笑っておられました。

今は壁から突然手が現われて私の首を絞めることのないように祈るばかりでございます。

見なければならないビデオはあと51+15=66本・・・ (7月15日22時48分)



* 座敷牢の日々(7) 執事の桜@謹慎中さん

あぁ、昨夜も・・・・

私はこの座敷牢から抜け出す決心をいたしました。
もうこれ以上恐怖の日々には堪えられないのです。
このことを執事長のマッキー様にお話ししたとしても、ここから出たいがための嘘と思われるか、頭がおかしくなったと思われるに決まっております。
昨夜の夕食のトンカツについていた食事用のナイフを返さずに隠しておきました。
私の入っている座敷牢の木製の檻は相当に古く、あちらこちらが腐りかけております。
ナイフである程度削っていけばなんとか壊して出られるのではないかと思うのです。
幸いな事に3度の食事を運んでくれる書生のまーる君以外の人はここにはめったにこないので安心して作業ができるのでございます。

急に誰かがきた時のために、ビデオだけは再生しておきましょう。

見なければならないビデオはあと48本・・・・

   桜



* 座敷牢の日々(8) 執事の桜@謹慎中さん

木製の檻の腐りかけた部分を削りはじめて四日目になったのでございます。
この四日間も毎夜のようにあの恐怖のうなり声がどんどんという音とともに聞こえておりました。
私はその恐怖に負けないよう必死で堪えておったのでございます。
昼間はナイフで一生懸命に檻を削っておりました。
そのかいもあって、ちょっと見ただけではわかりませんが、檻の一角はすでにグラグラになっており、少し力をいれれば壊れそうになっております。

日もとっぷりと暮れ、本館のほうでもこの時間に起きている人は何人もいないはずであります。
いよいよ脱出することにいたします。
このまま逃げればこのお屋敷には二度と戻る事はないと思います。
お世話になったるんお嬢様や、執事長のマッキー様・・・もう御会いすることはないでしょう、黙って出て行くことをどうかお許しください。

私は檻に手をかけ力を入れてゆっくりと押してみました。
めきめきという音とともにあっさりと檻の一部は壊れたのであります。
私はあたりを見回してそっと座敷牢から抜け出しました。

そのとき、いきなり例の恐怖のうなり声が・・・・

座敷牢の中では最後の一本のビデオ(未亡人下宿/のり逃げ、監督 山本晋也)が再生されておりました。


* 座敷牢の日々(最終回) 執事の桜@謹慎中さん

私は声のするほうへ顔をむけました。
それはやはり私の入っていた座敷牢のふたつ隣の座敷牢からでございました。
だれもいないはずのその座敷牢にはなぜかぼんやりとした灯りが点っているではありませんか。
私はおそるおそるそちらに近づいていきました。
お経のようなうなり声は益々大きくなり、どんどんという音も激しさを増しているようでございます。
私は心臓が飛び出しそうな恐怖を感じながらもその座敷牢を覗いたのでございます。

そこで私が見たものは・・・・・
ヘッドホ-ンで音楽(おそらく「ガクト」の歌)を聞きながら鼻歌を歌い、狂ったように踊りまくっている、るんお嬢様の姿でございました。
私はへなへなとその場に崩れ落ちました。

あのお経のようなうなり声はるんお嬢様の鼻歌だったとは・・・
ラップ音だと思っていたどんどんという音はお嬢様の激しい踊りの音だったとは・・・
あぁなるほど、ヘッドホ-ンをしておられたので私の声もお嬢様には届かなかったのありますか。

るんお嬢様、いくら人に見られるのが恥ずかしいからといってもこんな所で歌い、踊らなくても・・・

そのとき最後のビデオの再生が終わったのでございます

       終



© Rakuten Group, Inc.